鍼灸師が教えるやさしくて安心な「小児はり」と「おきゅう」について



初めまして。鍼灸師(しんきゅうし)の齋藤恵美子と申します。

当鍼灸院は女性専用鍼灸院です。
このたびははぐまつさんにコラムを書かせていただきました。
子育て中のお母さんやお父さんに読んでほしい内容になっています。
妊活中の方や妊婦さん、子育中のお母さん方がご来院されます。

まだ小さなお子さんのいるお母さん。
子育てや子どもの病気について悩みや不安を抱えています。

そんなお母さんに「小児はり」と呼ばれる鍼灸治療があることをお話しします。

するとちょっと戸惑った顔をされます。

「子どもにはりやおきゅう?」
不安や心配で顔がくもります。

「小児はり」は肌には直接刺しません。
用具を使って軽くさすったり、軽くトントンとたたくだけ。
痛いことはなく心地よい感じです。

「おきゅう」は熱くなく、やけどもしません。
ほんわかとあたたかく血のめぐりがよくなります。

 

ということで、この記事はあまり知られていない「小児はり」を中心に、健やかなお子さんを育くむ、やさしくて安心なはりとおきゅうについてご紹介します。

「小児はり」の歴史は西高東低?

はりやおきゅうは中国から伝わったものです。
その中国では日本のように「小児はり」はなく、大人と同じはりを小児に刺すそうです。

「小児はり」は江戸時代の中ごろに大阪で考案されたようです。

とても文献が少ないのではっきりとは分かっていません。

明治時代になると大阪を中心に西の方は比較的普及していきました。

それに比べて大阪より東の方、東京などではあまり広がらなかったようです。

 

商人の町大阪では実際に効果があればそれでよし。理論は二の次でした。
それに比べて東京では、理論がしっかりしていないと受け入れにくかったようです。

そんな東西の考え方の違いが「小児はり」の西高東低を生んだ理由かもしれません。

 

大正から昭和にかけて「小児はり」はさらに盛んになりました。

一日に100人以上の小児を施術していた鍼灸院が大阪には何十軒もあったそうです。

 

しかし、昭和に入って核家族化が進み、「小児はり」のよさを伝えてくれる祖父母という身近な存在もいません。

さらに1961年には国民皆保険制度ができました。
つらい症状が出たり、病気になると「まずは病院へ」ということになっていきました。

こうして、現在「小児はり」の存在を知っている人は、ほとんどいなくなっているのが現状です。

 

 

「疳(かん)の虫」って何の虫?

「小児はり」は、特殊な用具を使います。
刺さないはりで、子どもの皮膚をやさしくさすったり、触れたりして刺激する方法です。

「小児はり」は自律神経系の調整や健康増進、病気の予防を目的にしています。
生後2週間ぐらいから12歳ごろまでが主な対象です。

関西では小児はりのことを「虫はり」と呼びます。
「疳(かん)の虫」という小児の神経症状に効果があるからです。

「疳」とは漢方医学で小児の慢性胃腸病のことです。
甘いものを食べ過ぎたり、甘やかされたり、間食をする子に多いといわれています。

お子さんの表情からも「疳の虫」の症状がわかります。

「カンムシの出ている小児の顔色は、血行が悪く、青白いことが多い……眉間にあるかわからない程度の縦じわが感じられる子供は、夜泣き、夜驚症、不眠など睡眠に関連した愁訴を持っていることがほとんどである。眉間に縦じわがはっきり見える子の場合には、キーキー声をだしたり、よくケンカをしたり、人に咬みついたり、物を投げつけたり、頭を壁にぶつけたりするヒステリックな症状を持っている。」(『わかりやすい小児鍼の実際』より一部抜粋)


「小児はり」は疳の虫症状だけでなく、他の疾患にも治療効果あるということで利用されてきました。

 

夜泣き・キーキー声を出す・咳(せき)が出る・鼻水がでる・食欲不振・便秘・下痢・かみつく・目を開けて寝る・夜尿症・すぐ目が覚める・喘息(ぜんそく)・鼻炎・アトピー性皮膚炎などです。

 

「小児はり」は38度以上の発熱の時は禁忌です。
急性腹症、急性脳脊髄症、骨折、脱水、肺炎など早く適切な処置が必要な場合は受診が必要になります。

施術時間は年齢と症状によって違います。
お母さんのお話を聞いた後に、実際に行う時間としては2分~5分程度と短いです。

刺激する範囲は、大人のはりと違って、広い範囲の皮膚表面をやさしくさすったり、摩擦したりします。

子どもは生命力があるので、ほんの少ない刺激でも効果を発揮することができます。

「小児はり」として知られている行事に、中秋の名月の日にする「月見はり」があります。
この日に「小児はり」をすると小児の疳の虫の症状を緩和してくれるという風習です。

 

「小児はり」グッズは種類が豊富!

小児はり」に使うグッズは多種に渡ります
上の写真はごく一部の種類です。

ゴロゴロ転がして皮膚を刺激する「ローラーはり」。

皮膚の表面をトントンたたいて刺激するはり。

「てい鍼」と呼ばれるやさしくさするだけのはり。

ばねを利用して刺激の強弱をつける「集毛はり」。
使い捨てで持ち運びに便利なはりもあります。

「小児はり」をするときは基本的にお子さんにははりが見えないようにして使います。

 

「ちりげの灸」って何?

東洋医学では、体を構成する要素として「気・血・水」が循環していると考えられています。

「気」は生命エネルギーのこと。生命活動の原動力になります。

「血」は血液とその中に含まれる栄養素をさします。

「水」は血液以外のリンパや汗、鼻水などが含まれます。

 

鍼灸では、この「気・血・水」がめぐる通路を経絡(けいらく)と呼んでいます。
人の身体を経(たて)と絡(よこ)に走り、すべての臓器とつないで健康を維持しているといわれています。

 

「気・血・水」のバランスが崩れる


体にさまざまな不調が現れる
       ↓

その不調が経絡上にツボとなって現れる(健康なときにはツボは現れません)

そういわれても「経絡」ってまだよく分からないという方に。
「経絡」は電車の線路、「ツボ」は電車の駅に例えると少し分かりやすくなるかと思います。

 

例えをひとつ。

女性の疾患に良く効くツボとして有名な三陰交(さんいんこう)。

足の内くるぶしの頂点から指4本分上にあるツボです。

このツボは3つの線路が交差していてとても重要な駅のひとつです。
このあたりでいえば複数の路線がある松本駅のようなツボといえるでしょうか。

 

実は生まれてから14歳ぐらいまでは、この経絡と呼ばれる体のルートやツボはまだできていないといわれています。

しかし、昔から小児の夜泣きや神経症脱毛症・吃音(どもり)などに有効とされてきたツボがありました。

 

それが「ちりけ(散り気)」のおきゅうです。

背中のちりけ(またはちりげ)と呼ばれる身柱(しんちゅう)のツボへのおきゅうです。

 

胸から上の症状にはこの身柱【写真赤のシール】。

身柱は頭を前に垂れて、背中の首の飛び出ている背骨から下に向かい、3つ目と4つ目の間の背骨の出っ張りの間のくぼみにあります。

 

胸から下の症状には腰にある命門(めいもん)。【写真緑のシール】

命門はへその真裏の背骨中央にあるツボです。
この二つが小児の特効ツボとして有名です。

当院ではお子さんへのおきゅうには「棒灸」を使っています。
写真の棒灸は日本産と中国産の「あらもぐさ」を使い水分を一切使用していません。

燃えている先の灰の落下も心配がないためとても安全なおきゅうです。
棒灸の心地よさを感じてもらおうと思い使っています。

 

 

お母さんは最も身近な頼りになるホームドクター
お子さんに「小児はり」を体験してもらう前に、まだ一度も鍼灸治療をしたことのない

お母さんには、ぜひはりとおきゅうを受けていただきたいと思います。

はりやおきゅうには、体の血流を良くして、自律神経に働きかけ、免疫力をアップを図る働きがあります。人が本来持つ治そうとする力(自然治癒力)を引き出してくれます。

当院ではご来院された折、ご自身の体の触り方やツボの見つけ方をアドバイスして、ご自宅でセルフケアをしてもらうようにしています。

 

セルフケアを続けているとご自分の体が発するサインを手で感じることができるようになります。その育てた手を今度はお子さんのからだにしてあげてください。

お子さんの体調変化にお母さんはだれよりも敏感です。
お子さんに痛みや不快感があったときは、安心できる存在のお母さんの手で、ぜひお子さんの体にそっと手を当ててみてください。

手を当てるだけで、お子さんの不安はやわらぎます。
痛みが軽減するということがあります。

手を当てることは、大脳が刺激されてオキシトシンやエンドルフィン、セロトニンといった幸せホルモンが出るそうです。

元気なお母さんは、お子さんの元気につながります。

お母さんは、お子さんにとって最も身近な頼りになるホームドクターといえます。

 

最近も来院いただいたお母さんに、歯ブラシやスプーン、ドライヤーなど身近な日用品を使って、手軽に「小児はり」やおきゅうに近い効果の出せる方法もお伝えしていました。

この記事が育児に奮闘中のお母さん方や子育てに関心のある方に少しでもお役に立てれば幸いです。

 

記事の要点
・小児はりは昭和の初めまで大阪を中心に盛んだった
・小児はりは小児の神経症である「疳の虫」に有効である
・小児はりの適応は生後2週間ぐらいから小学生(12歳)までが主な対象

・小児はりは刺さないハリで軽く皮膚を摩擦して刺激するだけ

・小児はりはローラーやてい鍼など種類が豊富

・小児のおきゅうには身柱と命門ツボが特に効果的
・お母さんの子どもへの「手当て」で幸せホルモンが出る

・元気なお母さんは子どもにとって最も身近な頼りになるホームドクター

 

参考文献:

『わかりやすい小児鍼の実際』(谷岡賢徳 源草社)

『ベッビーマッサージ&ツボ療法』(辻内敬子 小井土喜彦 技術評論社)
『らくらくお灸入門 からだの声をきく』(高橋國夫 ちくま文庫)

 

寄稿者のプロフィール

安曇野市の女性専用鍼灸院「ナッラーレ鍼灸あづみ野」で鍼灸師として働いています。

サイト:https://narrare-azumino.com

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